知識の剣、知恵の盾 [東方昔話]

△注意△
・長文注意!
・キャラ崩壊しています!


むかしむかし、
東の方に、魔理沙という剣豪がおったそうな。
彼女は、知識という名の無敵の剣を携えておった。


魔理沙の剣さばきには無駄がなく、刃と刃を合わせるごとに相手の攻撃の型を覚えてしまい、
相手はたちどころに隙をつかれて、とどめを刺されるとのことじゃった。

『わたしの剣に、斬れないものはないんだぜ!』


知識の剣には“敵の弱点を見抜く”という能力があると言われ、人々から恐れられていた。


また、
山をいくつも越えた西の方に、アリスという剣豪もおったそうな。
彼女は、知恵という名の無敵の盾を携えておった。

アリスは好んで戦いを挑むほうではなかったが、何しろ“敗れたことがない”という噂を聞きつけては、名だたる剣豪が、果たし状を叩きつけてきたという。

彼女はあらゆる攻撃をその盾で受け止めてみせた。 戦いを挑んだ相手は、得意の剣術もことごとく受け止められてしまうので、最後には「参った」と言わざるを得なかった。

『あなたの考えなど、すべてお見通しよ』


知恵の盾には“相手の心を見抜く”という能力があると言われ、これまた人々から恐れられていた。


魔理沙は自慢の剣を手に、北から南まで、国から国へと各地を巡って、名だたる悪党をばっさばっさと討ち取っては賞金稼ぎをしていた。
稼いだ賞金で、彼女はたいそう立派な御殿を建てたそうな。
霧雨城と呼ばれたその御殿の中で、金銀財宝に囲まれて、魔理沙はたいそう幸せそうじゃった。
彼女を慕う部下もたくさん集まってきて、彼らを鍛えて強力な軍隊を組織するまでになった。

『力こそ、正義だぜ!』

そう言って、豪快にお酒を振舞う魔理沙を、部下たちもたいそう慕っておった。

そんな派手な暮らしぶりの魔理沙は有名人で、全国津々浦々に知れ渡っておった。


遠くの国から果たし状が届くことも珍しくなかったが、その中にアリスからの文も混ざっていたそうな・・・

「拝啓、魔理沙殿。 お噂はかねがねお伺いしております。
 西の方にお立ち寄りの際は、ぜひ一度お手合わせさせていただきたく。
 ・・・
 アリス・マーガトロイド

と、このような文面が季節ごとに届くので、魔理沙も少しは気にしておった。

『まぁた、西の国のアリスとやらから果たし状かぁ・・・
いつか行って叩き斬ってやるぜ!』



一方のアリスは、“負け知らず”というわりには質素な暮らしをしておった。
無用な殺生は好まず、仕方なく外から来たゴロツキどもと剣を交える。
そうして番兵として城主に仕え、町のものたちの幸せを守る傍らで、
普段はお百姓らとともに、汗水垂らして野良仕事に精を出す・・・そんな毎日じゃった。
ただ休みの日には部屋に篭っていたり、その部屋を誰にも見せようとしなかったり、
よく動く上海という人形を操ったりしたものだから、謎多き人でもあった。


城主が『これこれ、アリスよ。今回もよく町を守ってくれたの。褒美を取らすぞ。』
と言ったところで、自分のことはさておき、やれ
『城主様、暑さに倒れた⑨兵衛が、風雨も凌ぐのがやっとのあばら屋に寝込んでおります。どうか、⑨兵衛の家を新しくしてやってくれませんか』だとか、
『先日の鉄砲水で、町はずれの河童橋が流されてしまいました。どうか、このお金は橋の修復に使っていただけませんでしょうか』などと言うのじゃった。

城主も、そんなアリスの心を知ってか、
『そうか、そうか。分かった。アリスの言うとおりにしようぞ。 ま、何か困ったことがあったら、いつでも申し出るがよい。』
と、笑みを浮かべてご満悦の様子じゃった。


いっぽう、魔理沙は国から国へと行脚して、その勢力を拡大していった。
ひとつ不思議なことがあった。 それは行く先々の国で魔理沙そっくりの小さな人形が売られていることじゃ。
それを見て、
『可愛い人形じゃねぇか! 誰だか知らねぇが、気の利いたことをしてくれる。
 わたしも有名になったものだぜ! がはは!』
と言って、悪い気はしなかった。



そして、とうとうその日がやってきた。

全国を回っていた魔理沙が、ついにアリスの住む国へとやってきたのじゃった。

『やぁやぁ、われこそは東の国の魔理沙
 知恵の盾を持つアリスとやらはそなたか!?』

『はじめまして、魔理沙。 お噂はかねがね聞いているわ。 お会いできて光栄よ』

『ふん。 アリスとやら、ずいぶんなお宝を家に溜め込んでいるそうじゃないか! 今日はそれをごっそりいただきにきたぜ!』

魔理沙・・・でも、貴女に私の部屋を見せるわけにはいかないの』

『ふん。そう言うと思ったぜ。ならば、力ずくで奪うまでだ!!』


ここに東西の剣豪どうし、雌雄を決するときが訪れた。

二人の剣と盾は激しくぶつかり合った。

『おいで、魔理沙
『いくぜ、アリス』


知識の剣はヒュンヒュンと音を立てて空を切ったが、一向にアリスの弱点を見出すことはできない。
魔理沙は次第に焦り始めていた。

『なぜだ! なぜアリスの弱点が見えないんだっ!!』

その剣先を受け止める知恵の盾を持ったアリスには、功名心にはやる魔理沙の心が見て取れるようじゃった。
必死な魔理沙に対して、アリスには何かこの時を楽しんでいるかのような余裕すらあったという・・・


剣の刃先と、盾が金属性の高い音をたてて押し合う。

二人の顔があと一寸ほどで肌も触れ合わんばかりの距離に近づいた。
魔理沙の長い金髪がアリスの頬をかすめると、とてもいい匂いがした。

次の瞬間、
ほんの少しだけ魔理沙の剣さばきが速かったのじゃろう、またはアリスの防御に一分の隙があったのかもしれない・・・

知識の剣はアリスの胸深くに突き刺さっていた。

真っ赤な血が彼女の青いローブを染め、知識の剣をつたって魔理沙の手元から、ポタリ・・ポタリと地面にしたたり落ちた。

魔理沙・・・ 強いのね、魔理沙

そう言って力なく倒れこむアリスの、なんという悲しげな瞳・・・
その瞳の色にいくぶんたじろいだ魔理沙じゃったが、すぐにお宝を奪いに彼女の部屋へと向かった。


バァーン
アリスの部屋に踏み込んだ魔理沙は、驚いた。
部屋中の棚という棚に、幾百という人形が置かれているのじゃった。
どれも同じ姿形をしたその人形たちは、黒いベスト・スカート・帽子をまとって、白いエプロンと、帽子にはおおきなリボン飾りを付けておった。
どこからみても魔理沙そっくりの人形だった。
それを見た魔理沙はやっと理解したのじゃった・・・
アリスが「会いたい」と言って文を書き続けたわけ、
アリスが部屋を見せたくなかったわけ、
そしていまさっき見せた悲しい瞳の色。

そう。
アリスはもうずっと長いこと、魔理沙に想いを寄せていたのだった・・・


大急ぎでアリスの元へ駆け戻ると、アリスはもう虫の息じゃった。
『アリス! なんで早く言わなかったんだ! アリスーーー!!』
そう叫ぶと、魔理沙はアリスをひざの上に抱きかかえ、力の限り抱きしめた。

アリスは魔理沙の胸の中で息を引き取った。

最後の魔理沙の声が聞こえたのか聞こえなかったのか・・・アリスの顔は微笑んでいるように朗らかじゃったそうな。

ついさっきまで、主人のそばでオロオロしていた上海人形じゃったが、
しばらくすると、パタリと倒れて動かなくなってしまった。
魔理沙はアリスが大切にしていたその人形を形見にとポケットにしまいこんだ。


悲しみに暮れる日々が続いた。
人を斬ってこれほど後悔したこともなかった。
それでも果たし状が届いては、斬って斬って斬りつづけた。

敵を倒して己が生きる。 それが魔理沙の生き様じゃった。
心にぽっかりと空いた穴を塞ぐことができずに彼女は生き続けるしかなかった。

とある噂がたった。
命からがら逃げ帰ってきたお侍の言うことには、『近頃の魔理沙は、ときに大泣きしながら斬りつけてくる』ということじゃった。 無敵の剣を携えているだけでなく、泣きながら立ち向かってくるという気味の悪さも手伝って、魔理沙は輪をかけて恐れられるようになった。



これは古くて新しい物語。

あなたのまわりにも、
知識の剣を天高く掲げ、力で成り上がっていこうとする勇敢な人はいるじゃろうか?
それとも、
知恵と愛情をもって人のためにと、ときに傷つきながらも健気に生きている人がいるじゃろうか?


あなたは、魔理沙のように生きたいじゃろうか?
それとも、アリスのように生きたいじゃろうか?



やがて。
月日は流れ・・・

いくぶん歳をとった魔理沙は、最近はめったに人を斬ることもなくなっていた。

ある昼下がりのこと、
魔理沙は晩の肴にでもしようと、町はずれの河原で釣り糸を垂れておった。
午後の陽が遠くの山あいに傾き、空を橙に染め、川面をキラキラと輝かせておった。
その川面を眺めているときじゃった。
ふと対岸に目をやると、女性が佇んでいることに気が付いた。
遠巻きに見る、赤い帯紐のついた青いローブと帯紐とおそろいの色のカチューシャは
魔理沙にその人を思い起こさせずにはいられなかった。

するとどうじゃろう、
あの悲しい決闘の日以来、ピクリとも動くことのなかった上海人形が、魔理沙のポケットから這い出してきたのじゃった。 ふわふわと頼りなげに浮かんで河を渡りはじめる人形。 その人形と対岸の女性に導かれるように魔理沙も河の中へと入っていった。 夢中で河を渡りはじめた魔理沙にむかって、誰か町人が止めるよう声をかけたようだったが、彼女には聞こえなかった。
片時もその身から離したことがなかった知識の剣を岸に忘れてきたことに彼女は気づいた。
じゃが、それももうどうでもよいことだった。

『アリス!!』
河を渡りきった魔理沙は大声で叫ぶと、アリスのもとへ駆けていった。
そこにはいままで一度たりとも忘れることのなかったアリスの姿があった。
秋の稲穂のように輝く金髪に、緋色の髪飾りをつけた彼女はいつものように微笑んでいた。

『アリス、許してくれアリス・・・ わたしが悪かったのぜ・・・』

じっと魔理沙を見つめていたアリスの青い瞳から大粒の涙がこぼれ落ちる。

『いいのよ魔理沙。 私のほうこそ素直になれなくてゴメンね・・・ 身構えたりして悪かったわ』

『アリス!!』


それ以上二人の間に言葉は要らなかった。
そこは、穏やかな風が吹き、花が咲き乱れ、美しい鳥のさえずりが聞こえる地。
二人は仲睦まじく、幸せに暮らしたそうな。
いつまでも、いつまでも・・・


おしまい


【出展】
キャラクター: 東方Project
参考書籍: 『老いを照らす』瀬戸内寂聴/朝日新書
イメージ: MikuMikuDance7.39dot, にがもん式魔理沙, にがもん式アリス, 刀0811, 丸盾@9639武器屋
↓大きいイメージ
http://www.geocities.jp/orange246page/haranaika/kenTateImage.jpg